「お返し、ですか?」
「そう。あのケーキと同じくらいな・・・そんなお返し無いかな!?」
麗らかな昼下がり、今日のお仕事はお休み。
聖徳家の長兄イモコは、居間で新曲の練習をしていたバショウとソラに、相談を持ちかけていた。
イモコの真剣な面持ちに、まぁ落ち着いて?とバショウが紅茶も用意した。
「お返し、ねぇ・・・確かに先月のヴァレンタインは壮絶でしたね」
「まさかマスターがあんなケーキ作るとは思わなかったから、どうしたらいいか」
「でも、すっごく美味しかったよね!!私もお手伝いさせてもらったけど、大変だったなぁ・・・」
「でしょうね・・・・」
先月、2月14日聖バレンタインデー。
毎年の恒例ならバショウが様々なチョコを作って皆にプレゼントしていたのだが。
今年は「逆チョコ」なるものが流行ったそうで、何故だかマスターが台所に踏み込んだ。
『今年は私が作ってもいいか?』
そんな訳でマスターのチョコ作りが始まったのだが、一人で台所に立たせるのが不安なので
バショウとオニオがお手伝いとして1日中3人で台所に篭ったのだ。
そんな3人を一人は「楽しみだな~♪」とわくわくしていたり。
一人はいつも傍に居る人が居なくて少しだけ拗ねていたり。
一人はマスターが何かおかしな事をしでかさないかはらはらしていたりと、三者三様だった。
夕食と同時に出来上がったマスター特製チョコレートは、待ち構えていた3人の予想を遥かに上回っていた。
兎に角でかい、まるで結婚式の折に出されるウエディングケーキ程の高さのチョコケーキ。
高さも相当だが横幅もしっかりあって、家中にむせ返る程のチョコレートの匂い。
隣に並べられていたグラタンにも匂いが移るんじゃないかと、言う位甘く。
『いつも私がお前達に貰ってばかりだから、今日は私がお前達に愛を贈りたかったんだ!』
ほっぺたにチョコやら生クリームをつけたまんま。
にんまりと、悪戯が成功した子供のような顔で笑うマスターに、皆嬉しくない訳が無い。
夕食後、紅茶やコーヒーと一緒に皆で一斉に食べたのだ。
6人でも1時間はかかるほどのボリュームに、皆は大満足だった。
「マスター凄い器用だから、お菓子作りも上手で驚いたなぁ、イモコ君知ってたの?」
「あの人今までお菓子作ったことなんて一度も無かったんですよ・・・だから、尚更お礼しないとと・・・」
「でもイモコ兄さんお菓子作り出来ますっけ?」
「・・・・それは、言わないでくれ。ソラ」
うっ!と顔を引きつらせて遠い目をした兄に、ソラは肩を竦めながら「すみません」と呟いた。
仕事のこととなるとてきぱきとこなす兄は、どうやらコッチの方面は苦手なのだ。
それでもあのマスターの想いが篭ったケーキに相応しいお返しを、と悩んでいるのだ。
ソラもバショウと一緒にマスターに内緒で歌を贈る予定で。
それにイモコも一緒に。でもいいかもしれない。けれども・・・とソラは口を開く。
「イモコ兄さんは個人でお返ししたほうが、きっとマスターは喜ぶでしょうね」
「・・・・・どうかな」
苦笑しながらイモコは弟の一言を濁す。
自分とマスターの間に芽生え始めた感情に名前を付けるのにさえ、戸惑っているのだ。
これを「感謝」のお返しなのか「好き」のお返しなのか、自分でもわかっていない。
唯一つ言えるのは・・・・「マスター」からの「ありがとう」に返事をしなければいけない事。
「ほんとにどうしよう・・・・」
「そうだ、初心者でも作りやすいお菓子のレシピあるから待ってて?」
「あ、じゃあとりあえずお願いします・・・・」
空気を察したバショウがソファから立ち上がって部屋を出て行く。
自室には料理の本やレシピが置いてあるから、とかけて行く音を聴きながら。
イモコは再びソファに項垂れる、そんな兄の肩をぽんと叩くソラ。
「・・・・なんだよ」
「マスターはイモコ兄さんに貰えるならゴミだって大事にしそうですけどね」
「・・・・それは、何か嫌だな。例えが・・・」
「本当だと思いますが・・・」
「なぁにが??」
ばっと顔を上げれば、ソファの縁にいつの間にか双子の片割れが凭れていて。
扉の方を見れば、末弟も苦笑しながらソファへとやってきていた。
「エンマ、オニオ・・・録りは終わったの?」
「うん。今マスターがミキシングしてるからまだ作業中だけど、僕らは終わりました」
「一発オッケーだったんだよ、凄いでしょ!!」
「ああ・・・お疲れ」
ばしょーさんはー?とエンマがいつものように聞くので、上に行ったよ。と答えてやる。
何時もなら此処でバショウの所へ行くエンマを、ソラが断罪するのだが・・今日は珍しくそのままソファに座る。
「ふーん・・・何々?イモコちゃん何かお悩み中?」
「マスターへのお返し何しようか悩んでるんですって、兄さん」
「ちょ・・!ソラ!?」
「ああ、ホワイトデーだもんね!」
珍しく、ソラがエンマの質問に丁寧に答えてやるのにイモコは慌てる。
イモコの隣に座ったオニオも「もうすぐでしたね」とカレンダーに目をやっていて。
「俺とオニオ君はねー二人で肩たたきとかマッサージしてあげるんだ!」
「マスター最近お疲れ気味だし、喜んでくれるかなって・・・イモコ兄?」
「あぁあー・・・もう、皆準備できてるのに僕だけですか・・・・」
とうとう机につっぷす長男に、エンマが何か思いついた顔を浮かべる。
項垂れるイモコの背中をたしたしと叩いて、顔を少し上げる彼ににっこりと笑いかけて。
「イモコちゃん、まだ決まってないんだよね??」
「え、そうだけど・・・・・」
「いい案があるんだけどー・・・?」
「・・・・本当!?」
がばっと起き上がったイモコにオニオがうわっと声をあげる。
それ位勢いよくエンマの方に視線を合わせれば、エンマは可愛い笑みから一瞬黒い笑みを浮かべて。
「じゃあとりあえず、大人しくしようか★」
聖徳家の居間から、絶叫が響いた。
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畜生、思ったよりも長くなったorz続きは次の記事に!!!!!
マス太子は何でもこなせるけど、あえて何もしない人。
ケーキ作る時はパティシエもびっくりな器用さで、超特大チョコケーキを作ったんじゃ無いかな!!
無駄に続くぜ!!