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ねぇ、貴方は何処に行ってしまったの?
ねぇ、其処は如何すれば追いつけるの?
『初めまして バショウ』
私の手を差し伸べる優しい手。
私のマスターはいつも笑顔の耐えない人でした。
私が初めて音を奏でた時も、間違えた時も。
笑って「大丈夫」と励ましてくれる人でした。
マスターは生まれつき体が弱くて。
マスターはずっと部屋に篭って毎日のように曲を作って。
隣で歌う私の傍で毎日優しい笑顔で。
『幸せな毎日』が続くと信じていました。
何処へ行ったの?
其方に行っては駄目ですか?
マスターが倒れたのはレッスン中でした。
沢山の楽譜に飛び散った深紅の華。
私はただただ、横たわったマスターの隣で泣くことしか出来ませんでした。
マスターは、死んでしまったのです。
白いベッドで真っ白なカーテンを被って眠るマスター。
私はぼんやりとそれを見つめながら、静かに涙を流し続けました。
『ねぇ、早く』
帰ってきてください、マスター。
私は貴方が居なければ歌うことも笑うことも出来ないのに。
私は貴方に教えてもらった歌を沢山歌いたいのに。
ねぇ、ねぇ、ねぇ?
もう一度だけ貴方に会えるなら。
そしたら最期に貴方が迷わないように歌を贈りたい。
もう我が侭も言いません、いい子にしますから。
マスター・・・・。
****
一人でパソコンのフォルダで貴方を待っています。
泣き疲れて蹲る私の耳に小さく靴の鳴る音が聞こえました。
キィ・・・・。
マスターにしか開けられない扉のパスワードが解けた音がして。
私は、期待と絶望と不安を込めて顔をあげました。
「泣いてたら綺麗な声が台無しですよ、あんた」
不機嫌そうな、けれども何処か優しさを含んだ低い声。
私の中で渦巻いた期待が打ち砕かれたのに目の前の人から目が離せませんでした。
「・・・・・貴方を迎えに来ました、バショウさん。僕のマスターが貴方を待ってますよ」
ねぇ、マスター。
これは私への最後の優しさですか?
*********
前マスター←バショウ←ソラ。
バショウの想いは初恋のようなそんな淡い気持ちだと思います。
それが明確に色づく前にマスターが亡くなってしまって、其処にソラ君が飛び込んで・・・。
そしてフォルダから引きずり出して一緒のマスターの元に行くのです。
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